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元町映画館☆特集

永遠の夏に、彼らは光を呼吸する。『オーファンズ・ブルース』

第40回ぴあフィルムフェスティバルにてグランプリを受賞した本作

気づけばもう8月。毎年思う「今年の夏は暑い…」ということ。前回は夏休み映画として韓国の『工作 黒金星と呼ばれた男』をご紹介しました。今回は映画の中からほとばしる夏の陽気を感じさせてくれる日本映画『オーファンズ・ブルース』をご紹介。

こんなお話
舞台は夏が永遠のように続く世界。そんな世界で生きる女性エマ。彼女は物忘れがひどく、生活する上でノートを手放さず、家中あらゆるところにメモを貼っている。そんな彼女のもとに幼馴染で行方不明のヤンから象の絵が届いた。その絵を頼りにエマの旅が始まった…。

第40回ぴあフィルムフェスティバルにてグランプリを受賞した本作。ぴあといえば若手映画監督の登竜門。ここを目指して作品を撮る方も大勢いらっしゃいます。その中でのグランプリ。当時、工藤梨穂監督は22歳。そう、監督が大学時代に撮った作品なのです。暑さが全く和らぐことがない、異常な世界を描きつつ、登場人物の描写も見事。寺山修司著書の一節から着想を得たというのも驚きでした。

監督は「観る人を日常からつれだしていく映画」を目指したとのこと。そのコメントは嘘じゃございません。学生の時に作った…ということでお金もない中で監督のこだわりが見受けられます。画面いっぱいに広がる景色は「この景色を日本で撮れるのか」と思わずにはいられません。登場人物と同じくらい記憶に残る景色、1カット1カットが出演者のようです。

本作は「ロードムービー」に入るのかなと思います。旅をする。旅に出かける。海外ではヴィム・ヴェンダース監督の『パリ・テキサス』(1984年)やジム・ジャームッシュ監督の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984年)が有名ですね。本作も名作と肩を並べるような匂いがプンプンします。記憶をなくしたエマが自分の記憶と戦いながら目的を果たす。大きなイベントや事件が起こることもなく、脚本をなでるように物語は進んで行く。景色を殺した表現、登場人物の力に頼った映画が多いなかで気候と景色と仲良くすれば、こんなにも映画に奥行きが出るとは思いませんでした。きっかけとなった寺山修司の一節「夏は、終ったのではなくて、死んでしまったのではないだろうか?」。この映画では景色は一度もいなくなることなく、演者と寄り添って生きています。

うだるような暑い時期にぜひご覧になってほしいです。そして日本映画監督の可能性をスクリーンで見つけてください。
オーファンズ・ブルース
『オーファンズ・ブルース』(監督:工藤梨穂/2018年/89分/日本)
8/10(土)~8/16(金)
20:20~