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元町映画館☆特集

取材許可まで6年、撮影2年 初めて日本の刑務所にカメラを入れた圧巻のドキュメンタリー映画 『プリズン・サークル』

若者たちが自分たちの過去と向き合いながら、新たな生き方を見出していく…

自分が知っていた刑務所の知識がなんて薄っぺらいものだと思わされた。泉ピン子さん主演のドラマ『女子刑務所東三号棟』が大好きだった私。刑務所内の厳しい上下関係に加えて、受刑者、刑務官同士の複雑なドラマが好きだったな…と思い返していた。特に泉ピン子さんと新しい受刑者とのバトルが見ものだった…と私の話は置いといて、本作『プリズン・サークル』は私の知らない世界が詰まった刑務所ドキュメンタリーだ。

舞台は日本に4箇所しかない官民協働による新しい刑務所である「島根あさひ社会復帰促進センター」。受刑者同士の対話をベースに犯罪の原因を探り、更生を促す「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」を導入している日本で唯一の刑務所でもある。数千人の中から選ばれた40人の受刑者らは“TC”を通してなぜ罪を犯したのか、本作では4人の若者をピックアップし、自分たちの過去と向き合いながら、新たな生き方を見出していく…。

食事はロボットがー?
公務員のみが勤務していると思っていた私にとって民間の関係者が島根あさひ社会復帰促進センターに出入りしている様子には驚いた。さらに食事は、ロボットが自動で部屋まで運んでくれることも。さらにドアの施錠はカードキーで行う。全国の施設がこうであればと思う反面、便利すぎるその世界に呆気に取られる。

過去をたどると見えてくる原因
少年4人のうち、万引きや窃盗を繰り返す人物がいた。講師のなぜ行うかという問いに「そこにあったから」と答える。犯罪、罪の線引きは人間が決めたこと、彼はそれにはまらなかった、ただそれだけかもしれない。ここで考える。「誰が罪の大きさ、量刑を決めたのか」。そんな時のために刑法があるのだろうけれど、受刑者らにそれを伝えても意味がない。この施設では受刑者らになぜ自分が罪を犯したのかを考え、再発見させる。見えてきたのは幼少期の虐待や両親からのネグレクト。彼らは思い出し苦悩する。「でもそれが原因なのか」。親からの愛着を感じられなかった男性が自分の過去を淡々と語るシーンは考えさせられる。過去の自分と向き合うことは何も良いことばかりではない。冷たい態度を取っていないか、人は思っている以上に傷つきやすい、そして子どもはそれを感じやすい、痛烈に感じた。

今を語るOBたち
驚くシーンがある。カメラはTCを修了した元・受刑者の集まりもカメラにおさめている。バーベキューや室内での談笑シーンはそれぞれの経験談、今の暮らしを淡々と説明する。口々に「TCがなければ今の自分はいない」「こうやって集まれるのが嬉しい」。話を聞く、TCの講師も共感しているように見える。元・受刑者の今を追ったドキュメンタリーは多いが否定的な意見が多かった気もする。ただ本作は肯定的な意見、そして今を楽しんでいる様子が印象的だった。

握手を求めるまできた監督の熱意
完成までおよそ10年。坂上香監督の根性に恐れ入る。企画の時点でハネられて、それに負けず何度も交渉して撮影までこぎつけたそうだ。しかし刑務所内は多くの制約があり、本作を観ていても監督が本当に撮りたかったものはまだまだあったに違いない。しかしここまで刑務所内を切り取ったリアルな記録映像は他にないだろう。映画の終盤、撮影も終盤に差し掛かり、受刑者らに撮影終了のお知らせをするシーンがある。ある受刑者が淡々と感想を語り、最後に撮影者に握手を求めた…しかし外部との身体的接触は禁止されているため刑務官に止められる。「やっぱりダメですかね」。笑顔で語るその姿は監督の行動が受刑者を変えた瞬間なのかもしれない。およそ2時間の間に10年間の想いが詰まっている、そんな風に見えました。

自分は関係ない…そう思わずに年齢問わず、あらゆる世代の方にご覧になっていただきたい作品です。
プリズン・サークル
(監督:坂上香/2019年製作/136分/G/日本)

上映スケジュール
3/7(土)-3/13(金) 14:20~
3/14(土)-3/20(金) 12:40~
3/21(土)-3/27(金) 17:10~

☆3/7(土)上映後、坂上香監督舞台挨拶