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元町映画館☆特集

交差する記憶と終わりの想い『夕霧花園』

愛した男はスパイなのか?

『夕霧花園』と書いて「ゆうぎりかえん」と読みます。

皆さんはタイトルから見て、どんな映画だと想像しましたか。ドラマ、ラブストーリー、アクション、SF、映画には様々なジャンルがあります。では本作はどうか……。いや一言で言うと難しい。丸っと言うととラブストーリーでもあるし、「財宝探し」という内容ではSFぽさも感じる。そんな複雑さが混じり合った本作。まずはあらすじからどうぞ。

あらすじ
愛した男はスパイなのか?

本作は3つの時間軸から構成されています。

1980年代、マレーシアで史上二人目の女性裁判官のキャリアを持つユンリン。連邦裁判所判事を目指す彼女はかつて愛した謎の庭師、中村がある財宝にまつわるスパイとして試弾されていることを知る。
そして時は遡り1950年代。庭師として活躍する中村の前に見習いとして現れたユンリン。悲しい過去を持つユンリンは偶然現れた中村のミステリアスさに惹かれるが……。
第二次世界大戦中、ユンリンとその妹のユンホンはマラヤ(現在のマレーシア)で、日本軍の指示で強制労働に駆り出されていた。日本は敗戦、タイミングを見計って逃げ出すことができたユンリンだったが、ユンホンは見殺しにしてしまい……。

3つの時間軸、歴史。男女、恋愛、戦争、財宝、庭。様々なキーワード、伏線が張り巡らされている本作。重厚なそのストーリーは私たちを惹きつけます。

本作を監督したのはトム・リンという映画監督。過去には恋愛映画を描いてきましたが、本作を制作するにあたり、歴史から、庭園の美術までかなりのこだわりを持ってのぞまれたそうです。盛り沢山の本作の見所をあえて一つあげるなら私は美術、女優さんを推します。

本作の物語のキーアイテム、日本庭園。これが実に見事だなと。謎の男・中村がデザインした日本庭園。完成までの経緯が本作では描かれています。1950年代ですから、重機などなくほぼ人力。何人もの大人が石を持ち、地面を堀り、関西に近づいていきます。全体を見渡すことはできませんでしたが、その素晴らしさたるや。ネットや娯楽が少ない時代。庭が人の心を豊かにする。中村と時間も庭の制作もともにしたユンリンもまた心が豊かになったのではないでしょうか。

またちょっとネタバレですが、この庭園と◯◯を結びつけた設定も良かったです。中村を演じたのは日本のドラマや映画でもお馴染みの俳優・阿部寛。骨格もあり、着物の似合うお姿。いつも寡黙な表情の中村にぴったりでした。監督が中村はこの人しかしないと言ってオファーしたのも納得です。

そしてもう一つの見どころ、それは1950年代からのユンリンを演じたリー・シンジエさんの演技ではないでしょうか。いやぁ素晴らしい。一歩間違えれば死が待っている中で、「妹と一緒に生きる」という信念を持っている。妹の死後は新天地で生きる喜びをかみしめる。どこまでも遠く、未来を見つめているその目、視線が素晴らしい。私は映像を見るときは、人物の目、視線に注目しています。本作のリー・シンジエの目線も素晴らしい。妹を助けることでのできなかった悔恨の想いから、中村を愛していいいのかという戸惑い、そして移りゆく尊敬の念を込めた眼差しまで。「目で演技する」。リー・シンジエの目線にも注目してもらいたい。

と、ここまで美術や登場人物にスポットを当てて、ご紹介してきましたが、皆さんが気になる物語もお話ししたようにいくつもの伏線、物語が重なり合う重厚なものになっています。1本の歴史が通り過ぎていくような、やはり人に歴史あり。一つの大河ドラマをみたようなそんな満足感に浸れることでしょう。ぜひスクリーンでご覧ください。
夕霧花園
(監督:トム・リン/2020年/マレーシア/120分)

上映スケジュール
9/25(土)-10/1(金) 12:30~
10/2(土)-10/8(金) 10:30~


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