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元町映画館☆特集

『ボクたちはみんな大人になれなかった』

あの時も、あの場所も、あの人も、すべてがいまの自分に繋がっている。

「Netflix」、この言葉を知る人、その機能を使う人増えてます。改めて説明するとNetflixは動画配信サービスです。定額で映画やアニメ、ドラマなどがストリーミングで見放題という何ともお得なサービス。これを契約した日にはいつでもどこでも動画が手軽に視聴できますよね。映画好きには堪らないもんです。メディアの人とも話していると「あのNetflixの作品観た?」みたいな会話が去年から増えてきました。それだけNetflix独自の作品が注目されているということでしょう。実際『ROMA/ローマ』(監督:アルフォンソ・キュアロン)は「第78回ベネチア国際映画祭」で金獅子賞を受賞したのは記憶に新しいです。

そして今回はNetflixが送る日本映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』をご紹介します。劇場公開&Netflix世界同時公開の本作。期待しない訳がありません。


こんなお話
1995年、ボク、佐藤は彼女と出会った。“普通”が嫌いな彼女に認められたくて、映像業界でとにかく頑張った。そして1999年、世間がノストラダムスの大予言に一喜一憂する中で心の支えだった彼女は「さようなら」も言わずに去っていった。そんな出会いと別れを繰り返しながら時は過ぎ、ボクも46歳になった……。

原作はウェブ連載中からその「エモさ」が話題になった“燃え柄”さんのデビュー作『ボクたちはみんな大人になれなかった』。大ベストセラーとなった半自伝的恋愛小説のもと、ボクを森山未來さん、そんなボクの初めての恋人・かおり役に伊藤沙莉さん。多くのMVやCMを手掛けてきた森義仁さんが本作で監督デビューを飾ります。

原作未読ですが、書いてある通り、映画も「エモい」かった。つまり原作リスペクトしてるってことでしょうか。ちなみに「エモい」は最近できた言葉のようですね。いろんな解釈がされているようですが、通じて「感情が揺れ動かされること」みたいなことで落ち着きそうです。そう「エモい」。

この「エモい」作品はいわゆる現代から過去、そして今を紐解いていく物語です。1995年から2020年までのおよそ25年間を描いています。だいたいこういう作品って時系列をなぞっていくうちに「それ、無理じゃない?」という無理な設定とかが出てくるんです。で、結局それまでの良い空気が壊れちゃう。でも、本作はきれいに繋がっていく。それってすごいことだと思うんですよ。やっぱりそれを可能にしているのが森山未來さんの芝居じゃないかって思うんです。

森山未來さんといえば、アラサー世代ドンピシャの俳優さんじゃないでしょうか。
ドラマ『ウォーターボーイズ』(2003年)や映画『モテキ』(監督:大根仁)でも有名ですよね。現在ではドラマ、映画だけでなく、ダンサーとしても世界的に活躍されています。

公開、配信前なので、詳細を書くことはできませんが、森山さんが佐藤を演じてくれて本当に良かったと思います。一人の人間の25年間をたった一人で演じ切ったんですよ。コレッてすごいことだと思うんです。

悶々としていた20代はじめ、初めての彼女に好かれるために、映像業界に挑戦する。右も左も分からない中で、東京にもまれて年をとっていく。挑戦しなければ出会わなかった東京の人たちにも支えられ、時に騙され叱責されて、さらに年を取っていく。「人生いろいろあるよね」と今でも言われる私にとってはとってもとってもタイムリーなできごとがスクリーン上で繰り広げられている。そして46歳になった佐藤の目前に東京が魅せたものとは……。これがエモい。10代の時にカッコ良いなと思っていた俳優さんが映画の中で21歳から46歳までを演じているだけでも感慨深いのに、25年間で起こったできごとがあまりにリアルに描いているから何だか泣けてくる。そのできごとできごとが丁寧に描かれているから、ずっと考えてしまう、「あの時、そうしとけばよかったんやで」と。

東京で仕事をしたことない私でも思うこの件。東京で仕事しているアラサー、30代はもっと心に響くんじゃないかな。いや、リアルすぎて「東京じゃ当たり前」と思うのかもしれないけど。これは監督の描き方が本当に上手いんだなってことになる。まさに絶妙な塩梅だった物語。

ここで出した「東京」という街。本作では“ラフォーレ原宿”“タワーレコード”“シネマライズ……など90~2000年代を東京で過ごしていれば、馴染み深い景色もたっぷり出てくる。これもまたエモい。当時、そこにはいなかったけれど、タワレコ前の人の多さとか、映画館の外観無機質だけど、中には世界と繋がる窓口があるSF感とか想像するだけで楽しい。でもちょっと寂しくなるのはなんでだろう。

この文章を書いている時も映画の場面場面が思い出される。まるで写真1枚1枚のように。今だとスマートフォンに保存した写真を見直す感じなのかな。監督の森義仁さんはMVやCM畑の人だから映像の一瞬一瞬を人に焼き付ける、さすがプロだなと。随所にミュージシャンの小沢健二さんの名曲が散りばめられている本作だけど、車で海岸添いを走りながら、コンポから流れるオザケンの音楽を聴く行為も、ドンピシャ世代は誰もが「あるある」と頷いてしまうだろう。それだけ嫌味もなく、サラリと「共感」させてしまうのはやはりプロだ。

そして、それらのシーンや見所を紡ぐように描かれたラストシーン。
この映画が観せてくれる25年間という時間を映像に置き換えた瞬間の連続は観客の人生を掘り起こすことになるでしょう。これぞノスタルジー。作り上げたキャスト、スタッフ、そしてNetflixおそるべし。劇場公開&Netflix世界同時公開です。ぜひ映画館でもお楽しみください。
ボクたちはみんな大人になれなかった
(監督:森義仁/2021年/日本/124分)

上映スケジュール
◆11/6(土)~11/12(金)19:10~
◆11/13(土)~11/19(金)14:20~


※2K版での上映となります。


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