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元町映画館☆特集

『ミッドナイト・トラベラー』

3台のスマホを使って撮影されたドキュメンタリー

記録映像。現代はスマートフォンさえあれば誰でも映像を撮影し、編集も自分で行うことができる。いわば映画監督になれる時代だ。日本だけでなく、世界各国でも共通だ。今回ご紹介する作品も3台のスマホを使って撮影されたドキュメンタリーだ。被写体は何か、それは自分たちの家族。しかも祖国を脱出し、ヨーロッパを目指す旅を記録している。


こんなお話
舞台はアフガニスタン。再びタリバンが政権を握ることになり、現地住人は次々と国外へ脱出。その様子は世界にも衝撃を与えた。2015年にタリバンから死刑宣告を受けたアフガニスタンの映画監督ハッサン・ファジリはこの危機に際し、家族とともにヨーロッパへ脱出することを決意。妻のファティマとまだ幼い娘のナルギスとザフラ。5600キロにもおよぶ旅路をカメラは記録していた……。

彼らの目的地はヨーロッパ。ドイツ。「旅」と言っても今回の旅の目的は生きるための脱出。我々の思う旅とは想像も付かない映像がそこにはありました。資金が潤沢にあるわけでもなく、ギリギリの環境下で家族4人と行動する。公式の渡航ルートは高額になり、選べるのは非公式。しかも危険が必ずついてくる。ガイドの男は「安心だから、これを逃すといつになるか分からない」と責め立ててくる。海外に行った方はわかると思いますが、悪い奴は世界共通。奥さんの言うように「夫は優しすぎる」シーンが多々出てきます。この優しさゆえのこの家族。、見ているこちらは心配になってきます。でも家族ってこういうもんだよな。

想像以上の過酷な旅。草木が茂った道に、監視の目を欺くために時には夜間に移動することも。身体的な疲れならまだしも、中継地点のルーマニアの収容所では劣悪な環境に加えて、現地住人から「移民」という理由から侮辱的言動も受ける。そんな絶望的な状況下で、ひたすら進むしかない彼ら。同じ地球で起こっているのか疑いたくなる映像の連続。しかしそんな映像の中に挿入されるのはありのままの家族の姿なんです。

娘の存在
逃亡中でも家族はずっと一緒。笑顔で会話。女性に色目を使ったことで怒られる監督の姿や、騙されて途方にくれる姿。娘のナルギスとザフラが雪の中で遊ぶ姿や、難民キャンプの中での苦痛をそのままカメラは撮影しています。そんな怒涛の連続のなかで「娘たちだけは安心して暮らすようにしてほしい」と懇願する母や、映画館として「今」の状況を記録する必要があると考えカメラを回す父。それぞれの立場をカメラはまっすぐに記録しています。その記録映像の数々は同じ地球で起こっていることを私にまっすぐに問いかけてきました。

この映画を観ても私たちの生活はほぼ変わらないでしょう。彼らを助けたいと思っても直接できることといえば、お金を送金することでしょう。でもどこに?。葛藤はつのるばかりですが、少なくともこの映画が全国の映画館で上映され、不特定多数の人が鑑賞し、海を挟んで、地続きで起こっている現状を知ることが今、最も必要だと思います。本作は難民問題を「知る」上で今年最も重要な一本だと思います。この問題に対して、今は知識を持っていなくても大丈夫。大事なことを「なんでこんなことになっているのか?」。疑問を持つこと。考えさせてくれる一本です。テレビやニュースなどルーティーンな報道だけでは伝わらない問題の奥のそのまた深奥を伝えてくれる本作。ぜひ劇場でご鑑賞ください。
ミッドナイト・トラベラー
(監督:ハッサン・ファジリ/2019年/アメリカ・カタール・カナダ・イギリス合作/87分)

上映スケジュール
12/11(土)~12/17(金)10:30~
12/18(土)~12/24(金)11:50~



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