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元町映画館☆特集

驚きと戸惑いの映画体験が、いま始まるー『偶然と想像』

話題作が立て続けに公開される濱口竜介監督最新作

5時間17分、神戸を舞台にした映画『ハッピーアワー』。
村上春樹さん原作、2時間59分の映画『ドライブ・マイ・カー』
そのほか『寝ても覚めても』や『スパイの妻』など話題作が立て続けに公開される濱口竜介監督最新作『偶然と想像』。今回はこちらをご紹介。

いやぁ、やられました。「何にやられたのか」と言われると言葉が見つからない。しかし今までの作品のような重厚感とでも言いましょうか、一冊の文庫本を読んだようなずっしり感は本作になく、どちらかというとポップな感じで、時にクスッと笑かせてくれる会話劇。密室でしか味わえない、先の見えない展開の数々。なんでこんなにも日常を撮るのが巧いんだろうかと唸る3本の短編。これを観ずして2021年最後、年越しできません。

こんなお話。
親友との会話から始まった恋愛話を描いた『魔法(よりもっと不確か)』
男友達からの誘いでハニートラップを試みる女性の姿を描いた『扉は開けたままで』
20年ぶりに再開した女友達『もう一度』

3本の短編からなる本作。それぞれの作品が持つ空気感、それぞれが独立した話だけど1本の映画の時間で観る幸せ。動き出す偶然の数々。それぞれの終わりに見える景色とは……。

いやぁ、今年を代表する1本になりそう。今年、そんなに映画を観ていません、すみません。ですがそんな大それたこと当てはまると思います。濱口監督作品の鑑賞者なら分かる会話劇の数々。「会話劇」というと難しく考える人もいるかもしれませんが、今こうしてお話しているのも会話劇だと思うんです。濱口監督の作品は日常を映画に落とし込むが巧いなと。しかもスンナリ観れるように「魅せる」テクニックは怖いくらい。

本作でもそんな映像、会話が続きます。本作は3本ですが、私が特に気に入った1本『魔法(よりもっと不確か)』をご紹介。映画を観るときに、最初の15分くらいで、「この映画、自分好きだな」と判断しがちなんです私。今回はそれにすんなりやられました。胸鷲掴み状態です。本作はオムニバスということで特に1作目の本作を期待半分、不安半分で観ていました。「杞憂」でした、本当に。モデルの芽衣子と仲良しのヘアメイク、つぐみとのタクシーでの会話から物語は始まり、冒頭のロケ現場からタクシーに乗るまでの短期間で二人の関係が伝わります。そして、タクシーへ乗り込み、出会った男の話へ。

会話の中身はどこにでもあるような恋愛のこと。「どこで出会った男とうまくいきそう」みたいなそんなお話。でもある一言で芽衣子の表情が変わる。つぐみと別れて、芽衣子が向かったのはあるオフィスビル。そこにいたのはつぐみの元カレだった……。わずか40分程度の間で大きく物語が動き出す。私が強くこの映画に惹かれたのは、この元カレが現れたあと、オフィスでのやりとり、登場人物の立ち位置なんです。

映画は平面。平面の中で現れる情報がすべて。もちろんそこに音楽とかも加わり完成していくのだと思うのですが……。画面に見える登場人物の立ち位置も映画の中の重要な構成要素です。立ち位置がキマッていないと画面に緊張感がない場合もあったり、それを逆手に取って、映画に合わせて不快感を観客に与えることもできる。芽衣子と元カレが対峙するシーンでも、濱口監督が作り出した映像のカッコよさと不気味さを組み合わさったかのような独特な画がスクリーンで広がっていきます。大きな窓にだだっ広いオフィス。そこに立つ2人。直線的な画もあれば、地球儀のような球体を画面にいれてくる。チラッとうつるアイテムが映画のキーアイテムなのでは?という推理心も働いてくる。一方で無機質なパソコンに囲まれながらも登場人間たちが熱を持って感情をぶつけ合う。タクシーから、そのオフィスへ。空間の中にある余白の広がりを奇妙だし、監視カメラの映像を観ているかのように登場人物の全体像が見えてこないのも不気味。「次、何が起きるの??」という「興味心」をつっつかれる感触は独特でした。そしてもちろん、「いや、お前のそういうところあかんねんで」と突っ込みたくなるような素振りも巧いの一言。いやぁ~計算だとしてもコレには参りました。最小の情報量で最大限の効果。何度でも言います、参りました。2021年の締めは『偶然と想像』を推します。
偶然と想像
(監督:濱口竜介/2021年/日本/121分)

12/18(土) - 12/24(金) 13:40~
12/25(土) - 12/30(木) 11:00~
1/1(土) - 1/7(金) 15:30~
※12/31(金)のみ休館



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