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元町映画館☆特集

ようこそ、市民のための市役所へ。『ボストン市庁舎』

市役所の仕事ってこんなことまでしてるんだ

皆さんはフレデリック・ワイズマンという監督をご存知でしょうか。
「ドキュメンタリー映画の巨匠」と言われ、1967年の『チチカット・フォーリーズ』でデビュー後、『パリ・オペラ座のすべて』(2009年)や『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』(2017年)など数々のドキュメンタリー映画を監督。2016年には第89回アカデミー賞で名誉賞を受賞するなどまさに超有名な映画監督です。私も映画館で働いた後に、初めてこの監督の名前を知りました。「ワイズマン、いいよね」そんな言葉を何度聞いたか。

さてそんな監督の最新作『ボストン市庁舎』。ドキュメンタリー映画。
本作は彼の出身地、マサチューセッツ州ボストンの今を描いています。上映時間は4時間超え(途中休憩あり)。これを聞くと皆さん「そんな映画館に座っている自信ないわ!」と言うでしょう。実際、私も言われました。そして腰痛持ちの私にとって「身体、持ってくれよ」というのが率直な感想でした。

いやはや、この考えも杞憂。あっという間の4時間。
まず冒頭に当時のマーティン・ウォルシュ市長の話から始まり、物語は駐禁の話からネズミ捕りの話、銃と戦争の話などなど、ボストンに起こる様々なできごとに対してカメラが向けられます。その日常を記録したのが本作、コレが面白い。何が面白いのかって言うと、これが日本ではなくボストンを撮った作品だからだと思います。

多民族国家でもあるボストン。アメリカ自体、多民族国家、移民の国と言われますがボストンもその一つ。当たり前なんですが、人も違えば意見も違う、それに国籍が合わさるとさらに考え方も複雑になってきます。そしてとにかくめっちゃしゃべる、この国の人たち。いわゆる「おしゃべり」じゃなく、意見、主張を言葉にのせて話しあいます。問題に対してたまに冗談(ジョーク)を言うのが、これまた面白く、様々な意見を聞くのもこの映画の醍醐味ではないでしょうか。人生の指南書に太字で掲載されているような言葉をボストン市民が発している。これを観るだけでも、本作の価値があると思います。

特に本作で良かったところ。
市民と行政のとある意見交換会で「大麻の店」を作ることを行政側から提案される住民たち。行政側は地域のプラスになることを交えながら説得を試みる。しかし住民からは「町の治安はどうなる?、警察の人数を増やしてくれるのか」といった意見があがる。そして最後にある住人が「この集会に参加したあと、我々はただ帰って泣くだけ?本気で取り組む気があれば、ここに参加した全員、すべての住民の意見を取り入れた解決策を用意するだろう」と参加者の意見をまとめ、その時間は終わる。このシーンは圧巻だった。ピリピリしたムードの中に互いの本気がぶつかる。日本だと怒号が飛んだり、土下座したりと、一種のパフォーマンスのように見え、言葉に意思が感じられない。しかしこのシーンだ。対話を続けることで行政側の「本音」も表出する。恐らく、住民の本気が言葉に乗らなければこのシーンは上映されなかったのではないだろうか。「対話する」、それが映画になる。

そうそうあとこれも本作を観てもらいたいポイント。
それは市役所の仕事ってこんなことまでしてるんだってこと。
学生時代、「市役所職員になります」て言って「何するところなん?」と聞くと、答えることができない友達がいました。
余談になりましたが、皆さんの周りに市役所勤務の人っていますか?この映画は私たちの想像を超えるような多岐にわたる市役所仕事が紹介されてます。これが結構タメになる。道に立つ木や道路もそう。「公共事業」と言えば、それで終わるけれど、そこを職場として働いている人もいれば、税金ももちろん投入されている。関心を持つというよりも、何をしているかを知るのも国民の義務、我々が知っておかないといけないことだと痛感。この映画に出てくる国民はやっぱり知った上であんなにパワーが乗っかった言葉を投げかけているのでしょうか。

そんなこんなで「対話の力」と「行政の仕事」を知る上で大切で、面白い映画になっています。
書ききれませんが、その見所を先陣切って担っているのがマーティン・ウォルシュ市長。2021年の3月にはバイデン米大統領から労働長官の任命を受けて、米上院で承認されたすごい人。本作でも言葉の数々に「寄り添う」ことが強く提示され、「自分の話を語るのが大切だ(tell a story)」という劇中の言葉も印象的でした。自治体とは、市役所とは、市民とは。それぞれの視点から描かれるボストンという町。自分の住んでいる地域のことを考えたくなる、そして自分と向き合うキッカケにもなりえるドキュメンタリー映画『ボストン市庁舎』。ぜひスクリーンでお楽しみください。
ボストン市庁舎
(監督・製作・編集・録音:フレデリック・ワイズマン/2020年/アメリカ/274分)

1/22(土) - 1/28(金) 13:00~
1/29(土) - 2/4(金) 14:50~



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