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元町映画館☆特集

今度こそ、自分を生きる。『三度目の、正直』

ひとつの家族の姿を通して見える、自分が今、何を求めているか

自分が今、何を求めているかってのは分からないものです。他人に指摘されることでもあるし、たまたま自分で気づくこともある。本作はそれを具現化したような映画です。「あ、この登場人物は愛を求めている、でも相手は気づいていない」。言葉では夢中と言っても、心は違うところで生きている。ふわふわっとした感情を映画化するのは難しいものですが、本作をじっくりと見ていると自分と向き合っているような不思議気な気持ちになりました。

こんなお話。
パートナーの連れ子が海外留学するということでお別れ会を開くことになった月島春。寂しさを抱える春はある時、記憶を失くした青年と出会う。流産を経験していた春はその子を自分の傍で育てる決心をするが、周囲は反対する。一方で春の弟・毅は音楽活動を続けている。そして妻の美香子は精神の不調を訴えて、春のパートナーである医者の宗一郎のもとへ通院していた。それぞれの家族の形がじょじょに破綻し始めて……。

本作は神戸を舞台にしている。そして監督は7年前の2015年に公開された映画『ハッピーアワー』で濱口竜介監督と共同脚本を担当した野原位さん。本作で劇場監督デビュー作になる。まずやはり、神戸を知る人は神戸という街を映画に落とし込むのが上手い。電車の中から見える景色さえも、映画のエッセンスになる。そして普段は一般の人が歩く坂道でさえもそうなる。まず、そこを観てもらいたい。

この家族たちの姿を通して見えたものをずっと考えてきた。そして第一に、一番に思ったことは生きるってのはこうも面倒なことの連続なのかということ。どこの誰かも分からない青年を「自分の子ども」として育てる決心をした春も、患者に恋をする宗一郎も、家族を大事にしているように見えて、音楽が一番(もしかしたら家族かもしれない)の毅も、その毅の姿に悩む美香子もみんな生きづらそう。仕事もしているし、特にお金には困っていなさそう。強いて言うなら、子どもが近くにいるか、そうでないかだけ。正直、最初はなんだこの大人たちと思った。

青年が出ていくなら死を選ぼうとする春。わかりやすい愛の形だと思った。「死ぬくらい愛しているのに、どうして??」というのが画面いっぱいに広がっていた。言葉では伝わらないなら行動で。物語が進むにつれて、それは、毅夫妻にも浸透していく。想いが伝わらなければ、形を変えて届けてみる。きれいに順序立てて行われているかのように思えるそれらの行為が有効か、そうじゃないかは相手によって変わっていく。連続的に見せられる結果たちは自分の過去を振り返るにさせる。はじめは疑問符がついていた思考回路が物語を理解するために、自分の過去と対峙するために音を立てて動いていました。

まともとは思えない登場人物たちの生きづらさ。いびつさが知らず知らずのうちに自分の側まで伸びてきて、思考回路まで変えてしまう。全体的に温度で言うと冷たさを感じる作品ですが、後ろから抱きしめられる、そんな暖かさも感じた。温度は映画の中で絶妙に調整されて、ラストシーンへ向かっていく。この暖かさが人を帰るのか、それとも冷たさが必要になってくるのか。見終わった後でもまだ答えが出てこない。

ぜひ皆さんの意見を聞いてみたい。皆さんの映画への温度を尋ねたい作品です。ぜひスクリーンでお楽しみください。
三度目の、正直
『東洋の魔女』
(監督・編集:野原位/2021年/日本/112分)

上映スケジュール
3/12(土)~18(金) 19:00~
3/19(土)~25(金) 11:00~
3/26(土)~4/1(金) 12:10~



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