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穴井文彦:ライフ×ワーク

Vol.2 「長く働いてきた人の言葉」北尾トロ著

 テレビでは「情熱大陸」のような、突出した才能や実績を上げた人に密着する番組が人気です。見ていて感心することしきりですが、すごすぎて引いてしまうこともあります。感動演出の「盛り過ぎ」ですかね。

 その点、この北尾トロさんが書かれた「長く働いてきた人の言葉」は淡々としていて、素直に読めます。登場する人たちが、個人タクシーのドライバーや喫茶店のマスターなどという本当に市井の人々ばかりだからでしょうか。ドキドキするような劇的な展開はありませが、この本に登場している方たちは充実した仕事人生を送られてきたのだな、ということがよくわかります。大切なのは「仕事を続ける」ことなのでしょうね。

 この本の中で印象深いのがコンビニオーナーの話です。コンビニというと効率一点張りで地域とのつながりなど関係ないように思えます。ところが、実際には店によってずいぶん違うようです。この本に出てくるオーナーは本部の指導を無視して、コンビニとは思えないようなサービスを提供します。商品を配達したり、顧客名簿をつくってDM出したりといったサービスです。

 また、コンビニ=若者のイメージですが、この店はお年寄りとの関係を重視します。商品の宅配はお年寄りに対する配慮から始めたものです。お年寄りは義理固くて、意外に口コミ力があります。そのお蔭で長年安定した売上を保ちつづけるのです。

 こうして約24年間、紆余曲折がありながらもコンビニを続けますが、やがて高齢のためリタイアする時が来ます。店をオープンした時には反対運動が起こるほど地元から敵視されていたのに、店をやめる時は、地元の人たちからたくさんの花束が届きます。それだけではありません、24年の間に雇ったアルバイトたちが80名も全国から駆け付けてきて送別会を開いてくれたそうです。こういうエピソードって、コンビニのもつドライなイメージとかけ離れた感じがしませんか。

 コンビニにはシステムとマニュアルに縛られた冷たい印象がありますが、地域に根付き地域との関係を大切にしようという人間的な部分がなければ、ここまで全国に広がることはなかったかもしれません。やっぱり仕事って、おもてから見ただけではわからないことがいっぱいあるな、と改めて思いました。


 この本にはこんなベテラン職業人がたくさん登場します。年配の人なら、自分の経験と重ね合わせて共感する部分が多いと思いますが、若い人には退屈でしょうか。でもやっぱり、若い人に読んでもらいたいです。ひとつの仕事を「続けること」に希望を持てるようになるので。

 最後に、この本の著者あとがきから印象的なフレーズを引用します。


「どんな仕事を選ぶかということより、めぐりあった仕事とどのように向き合うかなんだろうと思います。そこに、その人らしさが出てくる」
「明らかに勤め人時代より労働時間が長いし、のんびりなどしてないんですよ。他の方もそうですが、昔の自分を語る目線が冷静ですよね。(中略)いまが充実しているから、過去の自分を大きく見せる必要がないんだと思います」

2013/06/21